とある禁書の短編目録

とある焼肉の首脳会談 ‐ サミット


 ジュージュー

 一方通行は焼肉屋にいた。
 一方通行の隣には打ち止めが座っており、そのまた隣に御坂妹――一〇〇三二号が座っていた。
 鉄板の広がるテーブルを間に挟み、一方通行の正面に垣根帝督が座っており、垣根の隣に結標淡希がおり、そのまた横に番外個体が座していた。

 ジュージュー

 肉をこんがりと焼いていく鉄板を真ん中に、六人は「とある議題」について話し合っていた。
 その「とある議題」とはズバリ……

 一方通行と垣根帝督。どちらが、真の学園都市第一位なのか、ということ。

「でェ? どォしてもオマエは、自分の方が格上だと言いてェわけかァ?」
「ああ、そうさ。なぁ、みんなもそう思うだろ?」

 ひょい

「人のことを、何の躊躇いもなく最初っから殴りつけるようなヤツは、第一位には相応しくないと思うわね、やっぱり(パクッ)」

 ひょい

「同感だと、このミサカも思うね。情けも容赦も無く人の腕をポッキリと折ってくれたんだからさぁ(もぐもぐ)」

 ひょい

「彼には彼なりの理由があったのです、とミサカは一方通行を弁護しつつ、肉を食べます(もぐもぐ)」

 ひょい

「だいたいそっちの人、ミサカを誘拐しようとしたし、危ない人なんじゃないの、ってミサカはミサカはあのお兄さんがロリコンだ、と暗に宣言してみる!(もしゃもしゃ)」

 一方通行は溜息混じりに「話をしてンのは俺と垣根だろォが……」と言いつつ、トングで生の肉を掴み、鉄板に並べていく。

 ジュージュー

 ひょい

「確かにその通りです、私たちは黙っているべきでしょう、とミサカは思います(もぐもぐ)」

 ひょい

「そっちこそ黙ってなさいよ(むしゃむしゃ)」

 ひょい

「そう言う、そっちこそ黙れば良いのに、意外と小物なのかも? ってミサカはミサカは内心を吐露してみたり(ぱくぱく)」

 ひょい

「そっちの大将こそ、大物ぶってる小物にしか、このミサカは思えないけどねぇ?(はむはむ)」

「まァ、待てよ、オマエら」

 一同を窘めつつ、一方通行は鉄板の上に肉を並べていく。

「良ィか? 話をしてンのは、俺と、垣根だ。それに、俺は自分のことを小物扱いされよォが、別にどォでも良ィンだよ。言いてェヤツには言わせるまでだし、そンなことにイチイチ拘ること自体が、小せェことなンだよ」

 じゅーじゅー

 ひょい

「さっすがあなたは言うことが違うねって、ミサカはミサカは向こうの人達にも見習うべきだよって指摘してみたり!(まぐまぐ)」

 ひょい

「うるさいわね、そっちの小っこいのはさっきから……(ぱくぱく)」

(……オイ……)

 一方通行はふと、思う。

(コレ、俺が肉を焼いて、周りの連中が平らげていく、っつゥ図式が、いつの間にかできあがってねェか?)

 ひょい

「小っこいの、とは失礼な。これでもミサカたちの司令塔なのです、とミサカは上位個体を擁護します(もぐもぐ)」

 ひょい

「でも小っこいよね、実際(もしゃもしゃ)」

(……間違いねェ。その図式は正しィぞ、オイ……)

 一方通行はしばし、考える。

(どォする? 鉄板の上に、肉はもォ無ェ。焼かねェと次の肉は食えねェワケだが……)

 しーん。

(肉が無くなった途端、会話がピタリと止まりやがった……。なンだァ、オマエ等!? 肉が無ェと喋ることもできねェのかよォ!?)

 一方通行はテーブルの端においてある、肉の乗った大皿に目を向ける。

(どォしよォ……。俺はまだ肉を一切れも食ってねェ……。食いてェが誰も焼いてくれねェし……)

 一方通行は周囲を見回してみる。誰もが黙り込んでおり、先程の威勢の良さはどこかへと行っている。

(そォなると、自分で焼くしかねェワケだが、俺が焼いたら、周りが全部食っちまうしなァ……)

 真剣に悩む一方通行。
 その時だった。

 ジュージュー

(ン? 肉を焼いているヤツがいる、だと……? 誰だ?)

「なぁ、一方通行?」

 垣根はそう言いつつ鉄板に肉を並べていく。

「俺はなぁ……」

(か……垣根ェ!? お、オマエが肉を焼いているのかァ!?)

「前々から、お前のことが気に入らなかったんだよ……」

(そして、全員の皿にそれぞれ取り分けているッ……!?)

 そして肉の乗った小皿を一方通行に手渡してきた。

「いつかお前のことなんかぶっ飛ばしてよぉ……俺が第一位になってやる。そこんとこ分かってやがんのか、第一位様よぉ?」

(な……なンてこった……。コイツ、言ってることはもの凄く腹立つが、やってることは最も礼儀正しく親切だ……!)

 一方通行は貪るようにして、小皿に乗った肉を食べる。今まで食べてきた肉の中で、最高に美味いような気がした。

(……もしかして、コイツ、もの凄く良ィ奴なンじゃねェか?)

 食事の時は、人間の“素”が出ると言うくらいである。

(ふゥむ……。こンなヤツにだったら、第一位の座を譲ってやっても……いやいや、それとこれとは別問題だろォが……)

 心が、そこはかとなく揺れ動く一方通行。そんな一方通行に打ち止めが「ねーねー」と話しかけてきた。

「あン? なンだよ?」

 ひょいひょい

「ミサカは、あなたがやっぱり一番だと思うの! ってミサカはミサカはあなたの味方をしてみる!(もぐもぐもぐもぐ)」

 一枚では足りなかったのか、肉を二枚重ねにして食べる打ち止め。

「あ、あァそォかい……(コイツ……言ってることは一番、忠誠心があるけどよォ……)」

 ふつふつとした怒りが湧いてきた一方通行は、持っていた割り箸を指の力でポッキリと折った。

(やってることは、ぶっ飛ばしてェほどムカツク……!)

 いっそ、窓の外に打ち止めを放り投げてやるべきか? と考えた一方通行だったが、段々と小さなことで悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。

(そォだよなァ……。コイツらは、肉を食いながらとはいえ、俺と垣根、どっちが上なのかを真剣に話し合ってンだよな。ここは一つ、俺も真剣に会話に混ざってみるとすっかァ!)

「一方通行、とミサカは一方通行の名を呼びます」

「おゥ、なンだ?」

 御坂妹は鉄板の端を指差して、

「そこの肉は焼けてますか、とミサカはあなたに尋ねます」

「……………………」

 一方通行は、再度、頭を抱える。

(……やっぱり肉のことしか考えてねェンじゃねェの、コイツら……?)

※お代は全部、第一位が支払います。