前方のヴェント、後方のアックア、左方のテッラ、右方のフィアンマ。
彼ら四人は道を歩いていた。
左「そういえば、学園都市には幻想殺しとかいう、バケモノみたいなヤツがいるらしいですねー」
右「幻想殺し? 何だそれは?」
後「最近、学園都市で幅を利かせている少年である。何でも、旗男とか呼ばれているようである」
右「実にけしからんなぁ、それは。会うことがあれば、俺様がぶっ飛ばしたいものだ」
後「我々にとっても厄介な存在である。いずれ、潰した方が良いかもしれないのである」
右「そうだな……ところで」
フィアンマはそこで言葉を句切り、一同を見回した。
右「腹減ったな。今日の昼は何を食べる?」
左「そうですねー。昨日のお昼は中華だったので、今日はサッパリ系が良いですねー」
前「あの……ちょっと良いですか?」
右「何だ、ヴェント? 急に改まって」
前「いえ、ヴェント先輩は風邪で休んでまして、私、代理を頼まれた後輩なんです」
ヴェント以外の三人は「なんだって!?」と声を揃えた。
右「そういう大事なことは先に言えよ!」
前「いや、スミマセン……。なんか、言い出すタイミングを逃してしまいまして……」
左「しかし、全然、ヴェントだと気付きませんでしたねー」
後「ふむ? 逆に言えば、黄色いコートと、あのメイクさえあれば、誰でもヴェントになりすませる、ということであるか?」
左「我々の格好にも、問題があるのかもしれませんねー」
後「テッラの言うことも、一理あるのである」
右「おいおい……俺様達は神の右席だぞ、仮にも? そこいらの人間にホイホイと入れ替わってもらっちゃ困るだろうが」
後「その通りであるな」
左「では、自分が自分である、という証を持ち歩くというのはどうですかねー?」
後「要は、身分証明になるものを持ち歩けば良い、ということであるな」
右「確かになー……。それじゃ、手始めに、ハンコを持ち歩くことにしようか」
左「……え?」
後「……ハンコ、であるか?」
前「……どうして?」
右「え? いや、身分証明っつったら、やっぱハンコだろ?」
前「免許証じゃないの?」
後「いや、保険証だと思うのである」
左「いえいえ、学生証ですねー」
右「いやいやいやいや! そこは、ハンコだろ、ハ・ン・コ」
前「あのさ、ちょっと良いかな?」
右「ハイ、ヴェントさん、どうぞ」
前「ハンコなんてさ、百円ショップで買えるくらいだし、例えば『御坂』さんが『上条』さんのハンコを買ってしまえば、『御坂』さんは『上条』さんになりすませるワケじゃない? そんな物で、私たち、神の右席という存在を証明できるものなのかな? 私たちって、そんな百円ショップでどうにかできてしまうような、そんな安っぽい簡単な存在なのかな?」
後「ふむ……ヴェントの言うことも尤もである」
前「うん、なんか、ゴメンね、出しゃばっちゃって」
右「いや、ヴェントの言うことは当然だよ。自分の思っていることはズバッと言ってもらった方が良いし」
左「じゃ、フィアンマはハンコという意見を取り下げるんですねー?」
右「いや、そこは譲れない」
後「何故であるか?」
右「世の中は所詮、ハンコなんだよ」
前「随分……ひとくくりにしちゃったわね、また……」
右「いや、実は、この前、携帯電話を買い換えたくって、住民票が必要になったんだけどさ」
後「ほう? それで?」
右「区役所に取りに行ったんだが、ハンコを持ってなかったから追い返されたんだよ」
その時、フィアンマの右肩が急に爆発し、そこから第三の腕が現出する。
右「しかもその時、丁度この状態だったし」
左「追い返されたのは、ハンコが原因じゃない気がしますけどねー」
前「いずれにしても、ハンコじゃ身分証明としてふさわしくなさそうね」
後「それに、ハンコよりはサインの方が納得できるのである。筆跡鑑定をすれば個人を特定できるのであるからな」
前「筆跡鑑定ねぇ……。妙に“科学”かぶれなのね、アックア?」
後「うるさいのである。というか、貴様は、ヴェントの代理でやって来た後輩ではなかったか?」
前「あ、スイマセン……エラそうな口利いてしまって……」
左「あー、なんだかもう、ワケが分かんなくなってきましたねー……」
右「ふむ? こういう議論は、感情論になってしまいやすい。ここは、冷静な第三者の意見を取り入れた方が良いかもしれんな」
その時、フィアンマの視界に、ツンツン頭の男の姿が映る。
右「そこのアンタはどう思う?」
上「あ、俺?」
ツンツン頭の少年こと、上条当麻は四人の話を一通り聞いてから、言った。
上「うーん……まぁ、みんなの意見を聞かせてもらったけど……俺の意見、言って良い?」
右「ああ、どーぞ?」
上「べつにさー、神の右席だからどうとか、どうでも良いんじゃないか?」
後「どうでもいい、とはどういうことであるか?」
上「要はさ、一緒にいて楽しければ、それで良いんじゃないの? そいつが誰なのか、問い詰める必要性って、あるのかな?」
右「……なるほど。確かに、そうだよな」
前「一緒にいて楽しいなら、何も問題は無いわよね」
後「良いことを言うのである、そこの少年」
左「いやいや、ちょっと待って欲しいんですねー?」
右「なんだ、テッラ?」
左「やっぱり『そいつが誰なのか』をきっちりと確認することは必要だと思うんですねー。ホラ、我々は仮にも、神の右席なのですからねー」
右「……というか、そもそも、神の右席である必要性って、あるのか、俺様達って?」
前「無いんじゃない? 神の右席であろうとなかろうと、私達は私達なんだし」
後「その通りであるな」
右「もういっそ、神の右席は解散して、新しい名前考えるか?」
上「その方が良いんじゃね?」
右「だよな。じゃ、お前を含めて、新しいメンバーの名前を考えるか、昼飯でも食いながら」
左「……………………」
左(あれ? なにかおかしいですねー。どうしてこうなったんです?)
※今日も平和だからです。