ハルヒとキョン子が取っ組みあって、キャットファイトでもやってんのか、と思っていたら、目の前に上履きが飛んできて、俺は慌てて扉を閉めた。後になって聞けば、あれは二人で着替えている最中だったらしい。それならそれで、鍵くらいは掛けといてくれ、とは思ったが、ハルヒのやつ、両手が紙袋で塞がっていて、鍵を掛け損ねたらしい。
まあ、良いもんが見れたから別に良いか、と思うべきなのか、それともキョン子の沽券に関わる問題なのだから、あの白い裸身の映像を脳裏から消しておくべきなのか……とりあえず、俺は後者を選び、全理性でリビドーを迎撃することにした。俺の全理性とやらは、撃墜王であらせられるらしく、キョン子の裸身が今となっては思い出せないわけである。うん、改めて思えば、少し惜しいような……まあ、それはともかく。
そもそも、今回の事件は、親友がいなくて寂しかったハルヒと、友達がおらず自分の居場所が無くて寂しかった海音寺が、たまたま、かちあってしまったから起こってしまったと言える。ハルヒにも海音寺にも、事後の処理をすることなどできないだろうし、今回の一件の後片付けは……どうせ、俺がしないといけないんだろうな。しかし、朝比奈さん(大)の話によれば、未来に何の影響も無いらしいが……。
どうにかした方が良いような気もするし、別に、このままでも良いんじゃないか、とも思う。ハルヒをつっつけばロクなことにならない、という意味では、海音寺も十二分に骨身に染みているだろうし、これ以上、海音寺を責めたところでどうになるもんでもない。それに、海音寺の寂しさも、分からなくはないからな。
その海音寺だが、俺とハルヒコの紹介で、めでたくSOS団の一員となった。念願が叶ったことで、海音寺は嬉しそうだった。やっぱり、不思議設定を持った能力者は、SOS団に入っておくべきだろう、と俺も思ったからな。SOS団にいれば、海音寺にも友達ができるだろうし、あわよくば、彼女だってできるのかもしれない。あくまでも、「かもしれない」だろうけどな。
ま、何にせよ、そのうち、今回の事件の後始末だって、どうにかなるだろうし、どうにかできるだろう。これまでと変わらない日常が続いていくというのなら、これでも別に良いさ。
良いと思って、それを一つの過去として、割り切る。そうでもしなけりゃ、次から次へと、いろんなことが起るからな。
ホレ、ハルヒコ&ハルヒの兄妹が、満面の笑顔で俺の鼻先にこんなチラシを突き付けているではないか。
「来たれ参加者! 草野球大会」
やれやれ……今年も野球をやるってのか。ま、幸いにして、今のSOS団は……
俺、ハルヒ、キョン子、ハルヒコ、長門、朝比奈さん、一姫、古泉、でもって海音寺、と丁度、九人体制だ。野球をするには丁度良いし、谷口、国木田、鶴屋さんも含めれば、ピンチヒッター要員もいる。
無敵にして常勝不敗のSOS団、ここにあり、ってわけだ。
ハルヒとキョン子が何か言い争っている。多分、いきなりすぎる、草野球大会出場について、キョン子がハルヒにいちゃもんをつけているのだろう。そんな二人を横目に見つつ、俺は朝比奈さんが入れてくれた茶を口に含んだ。
……やれやれ、やっと、本年度もSOS団が開店したか。待ち侘びたぞ、この風景を、この瞬間を。