結局のところ、ハルヒが世界改変だの、とんでもないことをしでかしてしまっただの、世界終末の危機だの、とかいった、古泉が言いそうな「ちょっとした恐怖」の類のできごとは、今回は、起こらなった。
ハルヒ本人は、精神的に落ち着いてきているのだと、古泉達が語っていた。そして、古泉達はこう推測している。ハルヒのメンタル的な落ち着きは、このまま、彼女の能力が、やがて、自然消滅してしまう前兆である、と。
おそらく、長門の親玉達は、それをよしとはしないだろう。ハルヒの力が消滅してしまう前に、朝倉涼子を要する急進派が、再び、ハルヒや俺達に襲いかかろうとしてくるのかもしれない。
しかし俺は、そういった連中が、再びやってくることはもう多分、無いだろう、と確信していた。おそらく、涼が、長門の親玉達を巧く説得してくれるだろうから。
ハルヒコも、海音寺も、消えてしまった。いずれは、一姫も、そして、キョン子も消えてしまうのは間違いない。しかし……どうせ、あと一年もすれば、卒業式がやってくるのだ。卒業式とは別離の象徴であり、いずれ人は、何かの行事によって、誰かと離れ離れになることを義務付けられてしまう。すなわち、誰かともう会えなくなる、ということは、考え方を変えれば、そこまで珍しい話ではない。たまたま、俺にとっては仲間だと思っていた連中との卒業式が早まったのだ、と思えば、気持ちを切り替えることも難しい話ではなかった。
逆にいえば、俺は、それくらいにしか、物事を考えていなかった、ということでもある。
俺は確かに、今回、夏休みが終了した直後くらいから感じていた違和感の謎を解き明かし、その後、俺自身がどうすればいいのか、どうしたいのかを考え、結論を下し、俺なりの行動をした。しかし、この時の俺は、本当の意味では、まだ全ての真相を解き明かしてはいなかった。
後になって思えば――と言うと、いかにも「後悔先に立たず」な話ではあるが、実際、そうなのだから仕方ない、と開き直るより他は無い――おそらく、古泉はもうすでに、全ての真相に気付いていたのだろう。それも、二学期が始まるよりも前に、おそらくは……ハルヒの世界修正に奔走していた頃には、既に……。
何故、古泉は、全ての真相に気付きながらも、俺やキョン子に、それを語らなかったのか。語ろうとしなかったのか。それはおそらく……キョン子にとっては余りに酷な話であり、それはすなわち、俺にとっても酷な話であったからなのだろう。
酷だということを知っていたからこそ、古泉は、俺にもキョン子にも、真相を語らなかったのだろう。ひとえに、それは、古泉なりの配慮であり、優しさだったのかもしれない。
そんな古泉の思いなど、俺は気付くことが無いままに、年を越し、冬休みも明けた頃……第二の変化が俺を待ち受けていた。
世界はゆっくりと元に戻ろうとしている。海音寺や、古泉が、そう言っていたではないか。夏休みが明けた直後に、元に戻ろうとする変化が起ったわけだが、それを第一の変化とした場合、さしずめ、冬休みが明けた頃に起こった変化は「第二の変化」と呼んでいいだろう。
そりゃまあな、世界が元に戻ろうとしているっていうことは、今回、俺は学んださ。つまり、キョン子も、一姫もいずれは消えてしまうっていうことくらい、俺だって理解していたよ。
でもな……世界が元に戻ろうとする過程だかなんだか知らんが、なぜ、そうなるんだ、と言いたくもなっちまうんだよ。
だから、言わせてくれ。なぜ、そうなる?
なぜ、キョン子が俺の妹になってしまったんだ?