生徒会長の桐原綾華の退院日は今日である。明日からは、綾華も登校してくるだろうし、生徒会にも復帰することだろう。
綾華を過労に追い込んでしまったのは、自分たち、生徒会の下っ端が不甲斐なかったからだろうな、と猪狩は思う。
これからは綾華をサポートしていかなければならないだろうし、綾華の負担を減らさなければならない。率先して、綾華を支えていく必要があるのは、副会長である自分だろうな、とも猪狩は感じていた。
そうやって気合いを入れ直し、さて今日も生徒会の仕事を頑張るか、と考えていた時だった。
生徒会室の扉を開けると、部屋から出てこようとしていた生徒会書記の二年生と鉢合わせしてしまった。
「あ、猪狩君。ちょうど良かった」
「良かった?」
猪狩が訊き返すと、書記の先輩は首を縦に振る。
「うん。君にお客さんだよ。と言っても、私たち、二年生には馴染みが深い人なんだけどね」
「へぇ? OBの人でも来てるんですか?」
尋ねつつ、猪狩は部屋へと入る。猪狩に続いて部屋に戻りながら、先輩は答えた。
「OBじゃなくて、OGかな。前の生徒会長の、西園寺美咲さん」
猪狩が部屋を見回すと、その西園寺美咲は、何故か生徒会長の椅子に座っていた。
本来、そこは桐原綾華の席である。しかし、何故かこの時、会長の席に座っている美咲の姿が、妙なくらいに堂々としていて、様になっているような気がした猪狩は、不思議と、そのことを咎める気にはなれなかった。
こちらに気がついたのだろう。美咲は猪狩のほうに顔を向け、にっこりと微笑んだ。
「そういえば、君とは、初めて会うんだっけ?」
猪狩は美咲に連れられて、生徒会室から白百合学園の屋上へと場所を移していた。その場で、猪狩は美咲の問いに「そのはずですね」と答える。
猪狩が生徒会の役員となったのは、昨年末のことだった。十二月という中途半端な時期に生徒会の役員となったのは、先日、潤に語って聞かせた通りであり、内に秘めた野望に対して素直になったからであるが、いずれにしても、三年生の美咲とすれ違ってしまったことに変わりはなく、猪狩にとって生徒会長とは綾華である、というイメージが強かった。
しかし、二年生の役員に言わせると、前年度の生徒会長である美咲は「話の分かる、人情味溢れたリーダー」とのことだった。なんでも、綾華ほど仕事ができるわけではないが、その分、周囲の人間の話をよく聞き、そして的確な指示を飛ばすことに長けた人だったらしく、周りを使う、ということに関しては綾華とは比べものにならない人、であるらしい。
とはいえ、そんな人であろうと、既に引退した身である。卒業も間近に控えた三年生が、いったい自分に何の用事だろうな、と思った猪狩は「それで……」と話を切り出した。
「俺に、何か用でもあるんですか?」
「まあね。まぁ、あんまり、こんなことはしたくなかったんだけどね……。でも、先輩としては、後輩のことが心配っていうか、気になるっていうか……」
言葉を選ぶようにして、美咲は話し始めた。
「猪狩君。率直な感想を言ってほしいんだけど、今の生徒会を、どう思う?」
一瞬、猪狩は言葉に詰まる。
それは、きわどい質問だった。
自分がいなくなってからの生徒会の様子がどうなったのか。引退した先輩が、ふと思い出したように、世間話の片手間にでも尋ねてきた、と考えることもできたのだろうが、猪狩にはどうしてもそうは思えなかった。
もしそうなら、現在の生徒会長である綾華を訪ねればよいはずである。それにもかかわらず、副会長である猪狩にそれを訊いてくるということは――綾華が入院中だということを加味しても――なにか、穏やかではない事情がある、ということか。
……あるいは、今の生徒会の現状というものを、既に看破されている、か。
どう答えたものだろうか、と猪狩は少し悩んだ。余計なことを綾華の頭ごなしに先代の生徒会長に吹き込んで、綾華の顔に泥を塗るわけにもいかない。これは、言葉を慎重に選ぶ必要があるな、と思った猪狩は、先程の美咲が「したくない」と言ったことに、概ね、賛同していた。
猪狩は答える。
「そうですね……。なんていうか、俺達、下の人間が不甲斐ないんでしょうね……だから、生徒会が生徒会として機能してないというか……」
「生徒会として、機能していない? それは、どういうこと?」
糾弾するような口調で美咲が切り返してきた。
「いや、だから、俺達が会長に頼りすぎてたんでしょうね。だから……会長は倒れてしまったんだと――」
「オーケー、もういいわ」
美咲はぴしゃりと言い放った。その後、頭をくしゃりと掻き、溜息を一つ吐く。
「聞いていた通りね、君って」
唐突に、そんなことを美咲は言い出した。意図が理解できず、猪狩は「は?」と間の抜けた声を出す。
「頭は切れるし、人の上に立てる器量もある。周囲の人間の行動に目が届いてるみたいだし、指示も的確だと思うわね。それでいて、決して威張ったところがなく、立場に見合った物言いもできる」
つらつらと言い並べられる単語に、猪狩は首を傾げるしかなかった。誰かに対する評価なのだろう、ということまでは理解できるのだが。
「トップの失態であろうとも、トップのせいにするのではなく、トップの失態を防げなかったのは下っ端の支えが足りなかったから、と判断し、自らが責めを負う。まったく……綾華には過ぎた副会長よね……」
「……あの、それって……」
「ああ、勿論、君への評価よ」
「俺の評価、ですか?」
はて、自分はそこまで大層な単語を並べられるような人間だろうか? 素朴に、猪狩には疑問だった。
ピンと来ていないのが、顔に出ていたのだろう。美咲は笑顔と共に「自信持って良いわよ、猪狩君」と言ってくれた。
「でもね……。綾華が倒れたのは、何も君たちのせいじゃないのよ。だから、君が責められる謂われはないの」
「え? でも……。会長が倒れたのは、会長が無理をして、生徒会の仕事をしていたからでは……?」
以前の副会長であった六木本劾は優秀な人だった。劾だからこそ任せられた仕事でも、猪狩達では役不足だと、綾華は判断し、だから自分で仕事を片付けるようになったのではなかったか? それはつまり、頼りない自分たちにこそ責任があるのではなかったか?
猪狩はそう思ってたのだが、美咲の見解では違うのだろうか?
美咲は言う。
「確かに、綾華は無理をしていたわ。でも、それは何も、猪狩君や周りのみんなが頼りないからじゃないのよ」
「それじゃ、どうして……?」
猪狩は訊いた。すると、美咲は少し悲しそうな表情になり、猪狩の顔から目を逸らす。
「綾華には悪い癖があってね……」
「ああ、度を超えた女好きっていうことですか?」
「ま、それも含めて『悪い癖』というべきかしら」
美咲はそこで言葉を一度切ると、猪狩のほうに再び顔を向ける。
「ところで、猪狩君。君は、綾華の女好きっていうことを知ってるのよね?」
「はい。劾さんから聞かされましたし、この目で見たりもしましたから」
「その、むぎもん、なんだけどさ」
あ、むぎもんっていうのは、劾のあだ名のことね、と注釈してから美咲は言葉を紡ぐ。
「猪狩君は、疑問に思ったことはない? 極度の女好きにして、男嫌いの綾華が、どうして自分の腹心に、あれほど男臭い男もいないであろう、六木本劾を選んだのかって」
言われてみれば、である。この時になって初めて、猪狩はそのことを疑問に感じた。
美咲は説明を続ける。
「綾華ってね、今でこそ、完璧超人みたいに思えるけど、昔は結構ないじめられっ子だったのよ」
初耳だった。猪狩は無言のまま、美咲に続きを促す。
「そんな綾華を助けたのが、他でもない、六木本劾。『一人の女の子をよってたかって、いじめるのが男のすることか』って啖呵を切って、五人もの相手に殴りかかったかと思えば、あっという間に蹴散らした、なんていう嘘みたいな逸話まであるのよ」
にわかには信じがたい話ではある。しかし、劾の性格を知っている猪狩からすれば、ある意味で劾らしい、とも思った。
「そんなことがあったんですか……」
「信じられないでしょ? でも、本当のことなのよ。そして、綾華の男嫌いはそこに原因があるの。昔、随分と苛められてたみたいでね。でも、自分の窮地を救ってくれた六木本劾だけは、綾華にとっては特別だったみたいで、彼のことだけは信用してたみたい」
ちょっとした英雄伝だな、と猪狩は思った。誰もが憧れるような行動を、平気な顔でやってしまえるのが、六木本劾という男でもあるのだろう。その割には、女に縁の無い人でもあったな、とも猪狩は思う。
美咲は続ける。
「昔、二人の間にはそんなことがあったんだもん。ピンチの時に自分を救ってくれる、っていう人間を失えば……どんな気持ちになるかは、だいたい、想像がつくでしょ?」
「それは、まぁ……」
「決して、綾華は弱音を漏らしたりはしないでしょうね。でも……綾華にとって、六木本劾の消失は確実にダメージとなっている。たぶん、綾華も、今はどうしていいか分からなかったんだと思う。必要以上に生徒会の仕事に夢中になることで、劾のことを忘れようとしたみたいだけど……結果はあの通りよ」
美咲の言葉を黙って聞いていた猪狩だったが、その感想は“なるほど”であった。
綾華がぶっ倒れてしまったのは、自分たちが不甲斐なかったからではなく、六木本劾という男の存在そのものに原因があった、と。
理屈は分かる。しかし、それを納得しろ、と言われても、猪狩からすれば困る話ではあった。
自分たちに非があるのなら、真摯な態度で受け止めることはできる。しかし、自分たちにはどうしようもないのに、ことあるごとに綾華に倒れてもらっていては、それこそ困るのだから。
「……俺達が気に病む必要がない、っていうのは、分かりました。でも……それなら、会長には、自分の力で、立ち上がってもらわないと、困ります」
「……そうよね。綾華は多分、今でも心のどこかで、六木本劾を頼っているんだと思うな。そうじゃなくて、綾華には、自分の足で立ち上がってもらわないと、ね」
綾華を元気づけるには、どうしようかしら……と思案を始めた美咲に、猪狩は告げる。
「俺に、ひとつ考えがあります」
「潤」
授業終了のチャイムが鳴り止み、やっと昼休みか、と思って背伸びをした時だった。自分を呼ぶ声に振り返った潤は、パンを抱えた世田谷が近づいてくるのを目にした。
「なに? 世田谷」
「お前にお客さんだと」
「お客さん?」
誰だろうな、と思いつつ、潤は世田谷の指差すほうを見た。すると、廊下には猪狩進太郎が立っており、潤は猪狩と視線を絡ませた。
爽やかな笑みを浮かべ、猪狩は「よう」とでも言いたげに、片手をひらりと振っている。
潤は猪狩のところに近づき、「どうかしたの?」と話しかけた。
「ああ。桐原会長が昨日、退院したのって知ってるか?」
「うん」
「だから、今日から会長は普通に登校している」
「うん、それで?」
「まぁ、仮にも、病み上がりだし、あの人にまた無茶でもされて、倒れてもらっても困るんだわ。だからさ、家庭科部で、あの人の退院祝いをしてくれないか?」
「退院祝い?」
「そんな大げさなもんじゃなくていい。資金が必要なら……ま、少しばかりだけど、何とかしても良い。とにかく、だ。会長を少しでも元気づけてやってくれないか?」
退院祝い……か。口中に転がし、それも良いかもしれないな、と潤は考えた。
何かと、綾華には普段から世話になっている。お見舞いに行ったのに、退院祝いをしない、というのも、考えてみれば、妙な話である。提案すれば、おそらく悠里も二つ返事で了承するだろうし、悠奈も嫌とは言わないだろう。御浜にしても、どこかお祭り好きな一面があるくらいだし、綾華の退院祝いのパーティなら、顔を出してくれるに違いない。
そしてこれだけ綺麗どころが一同に会せば、世田谷とてパーティ参加を渋る理由はない。考えてみれば、これは最近、散り散りになりつつある家庭科部をもう一度まとめる良い機会にもなるのではないか、と潤は少し打算を働かせた。
断わる理由が何一つ見当たらず、潤は猪狩に「うん、分かった」と答えた。
「いつやろうか、そのパーティ?」
潤が尋ねると、猪狩は答える。
「今日の放課後……で大丈夫か?」
また随分、急な話だな、と潤は思いながらも、少しの間、思案する。
普段は抜けている悠里だが、料理に関してだけは、抜かったところが無い。ここ最近では、家庭科室の冷蔵庫に食材がない、ということがまず無いため、急なパーティにも対応できると言って良いだろう。
部屋の飾り付けが必要だろうか、とも思ったが、あまり派手なことを綾華は好まない気もするし、飾りっ気がないくらいがちょうど良いかもしれない、と判断した潤は「多分、大丈夫だとは思うけど」と答えた。
「そうか、そりゃ助かる!」
潤の返答に満足したのか、猪狩は顔を輝かせた。
「これでも一応、サプライズってことにしたい。会長には、放課後になってから、家庭科室に出向くようにそれとなく言ってみるから、家庭科室の準備ができたら連絡してくれ」
「わかった。できるかぎり、盛大に迎えられるようにしてみるよ」
互いに言葉を交わし、二人は笑顔を見せ合った。
急な話であったにもかかわらず、悠里は文句一つ言うことなく、それどころか、潤の言葉に対し、両手を挙げて賛成し、ケーキ作りを始めていた。
ケーキが出来上がるまでにには多少の時間がかかる。ケーキを作っている間に、綾華が来たらどうするのか、という悠奈の問いに対し、悠里は「作り置きのクッキーと、紅茶でオードブルということにすれば良いじゃない」と言葉を返していた。普段抜けている悠里にしては、珍しく配慮が行き届いていた。このあたりの機転の良さは、料理というものに対して拘りのある悠里らしいと言えば、そうなのだが。
裏で悠里がケーキを作り、表では綾華を歓迎する。その準備が整い、猪狩に連絡を済ませてから数分後。おそらく、なんの事情も説明されないままに、家庭科室へと足を運ぶこととなったのだろう綾華が入り口の扉を開けた時だった。
潤たちは一斉に、クラッカーを弾けさせた。
小気味良い破裂音が部屋に響き、加薬の匂いを少しばかり残しつつも、盛大にぶちまけられたクラッカーが、綾華を歓迎していた。
何が起こっているのか、咄嗟には理解できなかったのだろう。目を白黒させている綾華の両腕を、悠奈と御浜が引っ張った。
そして、一同は声を揃えて、綾華に言った。
「会長! 退院、おめでとうございます!」
徐々に状況が飲み込めてきたのだろう。声にならない声を出しつつも、綾華は相好を崩した。
そして、彼女は言った。
「……ありがとう、みんな」
家庭科室で開かれたパーティは、規模としては、お世辞にも盛大とは言えない物だったかもしれない。しかし、綾華にはそれで充分だった。
当初、副会長の猪狩に、家庭科室に行ってこい、と言われた時は何事かと思ったが、今にして思えば、猪狩も計画に一枚噛んでいたのだろう。
しかし……こうして、楽しい気分になったのは、随分と久しぶりのことであるような気がした。こんな気持ちにさせてもらっただけでも、みんなには感謝しないといけないわね、と綾華は考えていた。
そうやって、ぼんやりと自室のベッドに腰掛けていた時だった。机の上に置いてある携帯電話が呼び出し音を鳴らした。携帯に手を伸ばし、綾華は「はい?」と応じる。
『今日のパーティ、どうだった?』
西園寺美咲の声だった。久しぶりに聞いた先輩の声に、綾華は、この人も計画に一枚噛んでいそうだな、と感じた。
「正直言って、楽しかったですね」
『そう。それは良かった』
「それにしても、粋なことをしてくれましたね、美咲先輩?」
『あら、なんのことかしら?』
どうやら、しらばっくれる腹らしい。
「トボけないでくださいよ。美咲先輩でしょう? こんな楽しいイベントを思いつくなんて、美咲先輩の他に――」
『猪狩君よ』
「へ?」
『提案したのも、実行したのも、全ては猪狩副会長よ』
「猪狩……が?」
『ええ。私は猪狩君の案に賛成はした。でもね……正直なところ、私には、綾華の退院祝いのパーティなんて、思いつくことすらできなかった』
「でも、猪狩は、そこまで優秀なやつだとは……」
『それはあなたの勘違いよ、綾華』
綾華の考えを言下に訂正し、美咲は言葉を続ける。
『良い、綾華? これは、あなたを蔑むわけでもなければ、むぎもんを扱き下ろすわけでもないし、私自身を卑下しているわけじゃない。だから……落ち着いて、聞いて』
「はい。なんですか?」
『猪狩進太郎という男は、相当に優秀な男よ。おそらくは、私以上に人を使うことが上手く、あなた以上に仕事ができるわ。そして何より、むぎもん以上に、責任感が強い。いい、綾華? 猪狩君はね、自分の失態でもないのに、あなたの失敗を庇おうとしたのよ?』
綾華はびっくりした。自分が何かを失敗していた、というところは勿論だが、自分の知らぬところで、その責任を猪狩が背負おうとしていたとは。
美咲は、自分が尊敬する数少ない人物の一人である。そんな美咲が言うのだから、実際に、猪狩は有能なのだろう。
全てを見透かすような先輩に加えて、自分より何倍も優れているであろう後輩に囲まれているのが、この自分――桐原綾華なのだろう。
「やっぱり……敵いませんね」
え? という美咲の声には応じず、綾華は言葉を続けた。
「猪狩には、ちゃんとお礼を言わないと、いけませんよね」
『そりゃあね。あと、家庭科部のみんなにも言うのよ? あ、そうそう! 綾華、聞いたわよ。去年、家庭科部の設立に関して、素直に首を縦に振らなかったそうじゃない? そんなひどいことしたのに、こんなことをしてもらえるなんて、ありがたいことだと――』
説教が始まってしまった。話半分に聞き流しつつ、綾華は思う。
引退した身であるのに、何かと自分のことを気に掛けてくれる、良き先輩である西園寺美咲。
ロクに言葉を交わしたわけでもないのに、自分を支えてくれていた、新たなる副会長である猪狩進太郎。
自分自身を過信した余り、ロクに指示すら出さず、ほったらかしであったにもかかわらず、それでもこんな自分についてきてくれた生徒会の面々。
そして、良き友であり、良き仲間達である、家庭科部のみんな。
自分は決して……一人ではないのだ。こんなにも多くの人達が、自分を支えてくれている。
どんなピンチだろうと、臆することはない。屈することもない。なぜなら、自分には、素晴らしい仲間達がこんなにもたくさんいるのだから。
だから……私は、もう大丈夫。大丈夫だから、もう心配しなくて良いのよ、六木本。
今まで私を助けてくれて、支えてくれて、本当にありがとう、六木本。
耳元で『ちょっと、聞いてるの、綾華!』という美咲の声とは別に、どこからか「もう泣くんじゃないぞ、綾華」という声が聞こえたような気がした。
だから綾華は、二人に向かって、こう答えたのだった。
「勿論」