West area

一年の終わり ‐ 霧島栄斗

 目が覚めて、最初に視線が捉えたのは天井だった。
 薬品の臭いがツンと鼻を刺し、体の節々が軋んでいるのを感じた霧島栄斗は、ここが病院のベッドの上と言うことを判断した。
 体を見やれば、そこらここらを包帯でグルグル巻きにされている。
 死んだ、と思っていたが、ナインズの回廊で放り投げた手榴弾では、自分は死ぬことができなかったらしい。
 我ながら、ゴキブリ並みの生命力だな、と思った時「目が覚めたか?」と横合いから声を掛けられた。
 声のした方に、栄斗は首を向ける。
 医者か、と思ったがどうやら違うらしい。個室の窓際に、スーツ姿の男がいた。
 男は掌サイズの革製のケースを取り出し、開いてみせた。
「JBIの、津堂洋一だ」
「……俺は、生きているのか?」
 栄斗の問いに、津堂は「ああ」と答えた。
「そう簡単に、死なせはしない。お前は鍵だからな」
「何の鍵だ?」
「神坂修司という男を知っているな?」
 津堂の言った名前に、栄斗は眉をピクリと動かした。
 生まれて初めて、栄斗に弾痕を穿った男。
 生まれて初めて、栄斗を完膚無きまで“負けた”と思い込ませた男。
 ああいうヤツが、強者という人間にカテゴライズされるのだろうな、と栄斗は思う。
 同時に、ああいうヤツを“善人”というのだろうな、とも栄斗は考える。
 過去に、神坂修司が何をしでかしたのか、詳しいところは栄斗には分からない。
 だが、そんな善人をJBIはこの世から抹消しようとしている。
 津堂の質問に答えるということは、修司の消去に手を貸すということになる。

 生まれて初めて栄斗は、

 誰かを殺すためではなく、

 誰かを守るために、

 JBIの男に敵意の籠もる目を向けた。

「知るか、ターコ」
 栄斗の言葉に、津堂は肯定も否定もせず、ひたすらに冷ややかな目で栄斗を見返していた。