センター試験が終了し自己採点をしたのが、一ヶ月は前のことになる。
英語以外の文系科目とオサラバしてからというもの、既に古典文法や地理の用語など頭から抜け落ちている。その代わり、数学や物理などで記述力を求められるのが二次試験である以上、そちらを重点的に鍛えながら、ここ一ヶ月を過ごしてきた。
今日は、二月二十五日。
全国の国公立大学前期試験の日取りである。
いよいよだ……と風間は気合いを入れ、ヤマシロ市営鉄道のホームに立っていた。
拳をグッと握りしめた時、風間は横に誰が立っていることに気がついた。
そちらに顔を向けると、見知った顔と対面した。
「やっ! 風間」
美咲だった。
「ああ、お前も、次の電車?」
尋ねると彼女は「うん、そう」と答える。
「それにしても、結構な雨よね、今日……」
そう言って美咲は空を見上げる。つられて、風間も視線を上に向けた。
美咲が言うように、今日は雨だった。
風間たちがこれから乗ろうとしている電車は、普段この沿線を利用している人達曰く「雨天遅延列車」とのことである。
要は、雨が降れば、必ず遅延する電車らしい。
それは今日においても同様であり、やはりプラットホームに姿を現さない電車に、周辺に散らばっている受験生達は苛立ち混じりに電車を待っていた。
「雨天遅延のウワサは本当だったみたいね」
「そのようだな」
「ところで、調子はどう?」
「そう言うお前は?」
「ま、一年間、自分のしてきたことをぶつけるだけ……って思ってるんだけど」
「だよな。俺もだ」
他愛もない会話をしているうちに、電車がプラットホームに滑り込んできた。スピーカーから「雨の影響で電車の到着が遅れたこと深くお詫び申し上げます」というアナウンスが流れてくる。
駅員の声を聞き流しつつ、風間は車内に乗り込んだ。
「でも、今日が入試なんだよねぇ……」
ポツリと美咲が言った。「長かったような、短かったような……」
「それを言うのは、全部終わってからだろ。これから、試験なんだぜ?」
風間がそう言ってやると、美咲は「いや、まぁ、そうなんだけどね?」と応じる。
「感慨深い気分にも、なっちゃうのよ」
「今からそんなもんに浸ってたら、試験の時に大ポカやらかすぞ?」
とはいえ、美咲の言わんとすることが分からないわけではない。
一年間、必死に勉強してきた。
どんな思いで、駆け抜けてきたことか。
それぞれ胸に秘める思いは違う。
しかし、目的地は誰もが同じ。
志望校に合格するということ。
電車が発車し、雨の中を走っていく。
風間は窓の外に目を向ける。
今日こそ、ケリを付ける。
どこか遠くで、いつまでもこちらを嗤い続ける生野透に、今度こそ勝ってみせる。
試験まで、あと少し――